カンボジアの地雷対策国家戦略
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20033月 CMAA 事務総長 サム・ソタ
(CMAA: Cambodian Mine Action and Victim Assistance Authority)
日本語訳:JCBL 北川泰弘 2003年3月30日

CMAAは地雷対策を国家開発政策に組み入れる観点から、「地雷対策国家戦略」(National Mine Action Strategy)を作成した。まだドラフトの段階であるが、2002年の地雷対策の成果を述べ、2003年から見た長期戦略ビジョンを述べている。或る部分は200210月に開かれたCMAAと関係各省、地雷除去団体、地方諸官庁、開発NGOとの会合に提出し、討論したものである。従ってこのドラフトは見直しとコメントを受ける段階のものである。

1.    カンボジアに於ける地雷対策の現状

1.1 地雷汚染を表わす統計(L1S調査、レベル・ワン・サーベイ)

   カナダ政府の資金で2000年、2001年にCMACとカナダのコンサルタント会社が、地形上立ち入り不能 だった2村を除く13,908ヶ村を対象に実施し、20024月に完成したL1S調査(レベル・ワン・サーベイ)   によると:
 1)地雷または不発弾があると思われる地域:3,037地域、4,466平方q(全土の2.5%)

 2)地雷または不発弾で高度に汚染された村:1,640ヶ村(全村の12%)

 3)不発弾が散らばっている村:      5,500ヶ村

 4)地雷または不発弾があると思われる地域の61%が北西部、北部のバッタンバン州、バンテアイ・ミエンチェイ州、オダール・ミエンチェイ州、プレアブヒア州、パイリン直轄市にある。 

 5)カンダール州、コンポンチャム州、コンポンスプー州で11,429件の爆発物除去作業が行なわれた。

 6) L1S調査による2000年、2001年の2年間の、最悪5州の死傷者数を第1表に示す。

1.2 死傷者数の統計(CMVIS統計、犠牲者情報システムと統計報告書)

  1994年にMAGが開始し、1995年以来ベルギーHI、カンボジア赤十字がフィンランド政府ほかの資金援助を得て実施しているCMVIS統計(カンボジア地雷・不発弾犠牲者情報システム)によると、1979年か20026月までの総死傷者数は54,453人であった。地雷の除去が大きく進んだとは言え、汚染と市民の事故数は世界で最高のレベルを保っている。

   1)    死傷者数の減少

1996年                                                   3,046

1997年                                                   1,651

1998年                                                   1,685

1999年                                                   1,153

2000年                                                     861

2001年                                                     825

   20021 - 6     518 人 (死者16%、手足切断25%、負傷59%)

                 (子供34.9%)、(女性6,4%)、(市民97%)
2)  不発弾による事故の増加

20021? 6月の死傷者:304人(59%)が不発弾、214人(41%)が地雷

地雷事故は森林が多い :   109人(51%)

不発弾事故は村内が多い:   131人(43%) 

3)   CMVIS統計による20011月〜200210月の最悪5州の死傷者数を第2表に示す。

1.3 LIS調査とCMVIS統計の比較 

「レベル・ワン・サーベイ(L1S)」の調査結果と「地雷・不発弾犠牲者情報システム(CMVIS)」の統計資料を比較すると大勢は同じであるが、下記の差がある:

1)被害の多い4州のバッタンバン州、バンテアイ・ミエンチェイ州、オダール・ミエンチェイ州、パイリン直轄市は両者共通であるが、5番目がCMVIS統計ではプレアブヒア州、L1S調査ではシエムレアップ州である。

2)被害の多い4州の死傷者数: CMVIS統計では全国の85% L1S調査 では全国の83

3)L1S調査は被害地域の正確な大きさ、または被害の範囲を測ることが出来ない。しかし、地方の人たちに対する地雷・不発弾の社会的・経済的インパクトについて価値ある情報を提供する。そしてこの情報は地雷除去計画において除去優先地域を決めるのに極めて有用である。

1.4 CMAAの設置の目的と活動

1.4.1 カンボジア政府は200094日にCMAAを設立した。その目的は:

   i) 各団体の地雷対策活動の調整、

   ii)地雷対策活動を経済・社会開発計画に組み入れ、カンボジア王国の貧困減少政策に貢献するため

1.4.2 CMMAの設置により、国内的にも国際的にも現在進行中のプロジェクトが効率的に実施されるようになった。CMAA2002年を通じてカンボジア国内の地雷対策の実施基準や実施方法を国内標準と国際標準に合わせることを始めた。

1.4.3 2000年に下記の標準や基準を制定した
  
   i)  18Cambodia Mine Action Standardの制定
 
   ii) National Mine Action Strategyの制定

   iii) Five Year Action Plan (FYMAP)の制定

1.4.4 CMAAと諸官庁、地雷除去団体、犠牲者支援・開発NGOとの関係を第1図に示す。

1.5 地雷除去、1992年から2002年まで10年間の成果

1.5.1 現在活動をしていない団体が除去した面積

 1)Cofras (Compagnie Francaise dAssistance Specialisee)Cidev (Compagnie International deDevlopment)11,88平方km

 2)UNTAC (国連暫定統治機構)           : 3.47平方km

 3)NPA (Norwegian Pepless Aid)                3,94平方km

                                                      計     19.29平方km

1.5.2 その後、活動を続けている団体はCMACHALO TrustMAGおよびRCAF(カンボジア国軍の技術者グループ)で、1992年から2002年までにこれらの団体が地雷と不発弾除去した面積は第3表の通りである。

3表 1992年〜20026月の総除去面積

総除去面積    20026月現在の除去要員構成

当初の除去団体   19.29平方km   20026月現在は活動していない

CMAC(註)     97.66平方km    除去小隊:48EODチーム:16、マーク班:19ほか

HALO Trust     16,3 平方km    作業要員:821

MAG         6.75平方km    作業要員 :342 人、One Person One Lane方式

RCAF国軍    59.98平方km     記述なし  

92年〜02年累計   199.98平方km 

(註:2003.3.26CMAC K.Sophoan事務総長の発表では要員:2,400人、DeminingUnit:6除去小隊:48、マーク班:19EODチーム:18ほか

1.6 犠牲者援助

1.6.1 CMVIS統計によると、1979年1月から2002年11月の死傷者数は38,349名であった。その中で、手足 切断6,386人、負傷者6,770人、火傷833人、視力喪失849人、聴力喪失286人、麻痺135人であった。

1.6.2     地雷犠牲者、特に切断者援助に関わった国際NGO

アメリカ赤十字社(ARC)、英国カンボジア・トラスト(CT)(日本の「希みの会」が義肢装具士を派遣)、ベルギー・ハンディキャップ・インターナショナル(HI-B)、フランスハンディキャップ・インターナショナル(HI-F)、国際赤十字委員会(ICRC)、米国国際復員兵財団 (VI)がカンボジア政府のMoSALVY(社会福祉・労働・職業教育・青少年社会復帰省)に協力して犠牲者援助を行なっている。

1.6.3  14の義肢装具・リハビリセンターがプノンペン及び12の州で活動している。

1.6.4  これらのセンターは2001年中に義肢2,900個、車椅子741台、三輪車数台を身体に障害のある人たちに贈った。

1.6.5     義肢装具の贈与を受ける人の全部が地雷犠牲者と言う事ではなく、色々な事故、病気による手足切断者が含まれている。この10年間の大部分が地雷被害者であったが、最近は交通事故等の地雷以外による切断者が増加しつつある。

1.7 地雷回避教育 (MRE, Mine Risk Education)

1.7.1 カンボジア政府は毎年2月に「地雷回避教育の日」を設けて地雷回避教育の重要性を再確認する日としている。これは地雷汚染地域に住む人たちの事故の危険を減らすため、オタワ条約をサポートしていることを示すため、地雷対策の分野に対する援助の必要性を諸国に感じとって貰うため、である。

1.7.2 その他、色々な国内NGO、国際NGOが地雷回避教育を実施している。それらは、CMAC、カンボジア赤十字、HALO Trust、MAG、ワールド・エデュケーション、ワールド・ビジョンである。

1.7.3     CMACは2002年にバッタンバン州、パイリン直轄市で、地域と連帯した地雷危険解消(CBMRR,        Community Based Mine/UXO Risk Reduction)プロジェクトの試行を開始した。これはハンディキャ     ップ・インターナショナル、UNISEF、UNDPの助力を得て作成されたものである。このプロジェクトは地     雷被害を受けた地方のコミュニティの地雷回避教育活動に対する管理能力を高め、地雷対策の必     要な範囲を明確にし、地雷対策活動計画の作成に参画し、当面している脅威を報告し、適切な援助     を訴えさせよう、というものである。

1.7.4      カンボジア赤十字社もまた、赤十字ボランティアと赤十字青少年メンバーズを訓練してCBMRRを実 施している。

1,8 社会的・経済的成果(1992年 〜 2002年)

1.8.1 地雷対策活動は人道目的(死傷者の減少)及び開発目的を優先し、活動資金はこの二つの優先度に応じて注意深く配分されねばならない。このような至上命令の他に、カンボジアの地雷対策活動は王国政府の社会・経済開発と貧困解消の二つの戦略を明確にサポートしている。地雷除去作業が地方の開発を有効に支援できるよう、地雷の被害を最も大きく受けている州政府はPSC(州小委員会)を設置した。委員長は州知事または副知事でLUPU(土地使用委員会)が参加している。PSC/LUPUプロセスは、CMACの作業部会の勧告で1998年にバッタンバン州で開始された。

1.8.2 PSC/LUPUプロセスは除去された土地を受取る人の名前と数を明確にすることから始まる。まず、村と集合村から提出された要求と優先度が郡の作業部会にかけられる。それらの要求は州レベルの基準に合うかが調査される。州の作業部会は各州で年1回開催され、最終決定をする。この作業部会は副知事が主宰し、最終決定には地方自治体、地雷除去団体、地域開発団体が参加する。

1.8.3 蒐集される情報が少ない

1)  PSC/LUPUの設立以前は地雷除去により生ずる社会的/経済的利益についての情報が少なかった。1992年以降の散逸した情報を集める研究調査が必要である。今の地雷除去実施団体は地雷対策への投資が社会的・経済的な利益をあげることを良く認識して、これらの情報を提出することに熱心である。

2)     例えば、CMACの「2002年上半期報告書」には、国の除去団体が除去した土地の50%が道路のリハビリに、13.4%が再定住と農業に、5%が安全な水吸み道路へ、5%が学校他へ充てられた、と報告している。CMACが除去した土地の25%は歴史的遺跡がある地域であった。これは社会・経済開発見地から非常に明確の利益還元があるように思われる。しかし、考古学的な地域の地雷除去の経済的インパクトについては今の所、評価した数字はない。

3)   PSC/LUPUプロセスにより、バッタンバン州では2003年に490平方kmの除去しなければならない。その40%を国内避難民の再定住に、30%を道路のリハビリに、残りを飲み水、学校に充てるのであ る。

4)     HALO Trustは2000年に1992年から1999年の地雷除去活動に対する社会的・経済的インパクト の評価を行なった。

5)     MAGは2001年に除去後の土地の利用について、34%が再定住へ、26%が道路建設へ、14%が農業へ、11%が学校ほかへ充てられたと報告した。

6)     王国軍の技術者グループが政府の要請で除去した土地の殆ど総ては道路用である。

2.    地雷対策の長期戦略2002年の調査結果と現在の地雷/不発弾除去の進行状況を考慮に入れると、カンボジアは長期の地雷/不発弾問題を抱えており、少なくとも今後20年間、地雷対策に国家的努力を続ける必要がある。この努力は長期戦略に基づいて組織されねばならない。

2.1     長期戦略は三つの想定にもとづいて建てられる。

2.1.1 次により、地雷/不発弾の脅威を減少させる
   
  1)   L1S調査により「地雷があると思われる土地」(SMA, Suspected Mined Area)を減らす。これは対人地雷に有効。

  2)   汚染した村の住民に地雷回避教育を行なう。これは不発弾に有効。

  3)   地雷の除去効率を向上させる新技術により生産性を上げて大幅な改善を行なう。

  4)    厳しい気候により、地雷/不発弾除去の効率が低下しない方法を研究する。

  5)    地雷除去の技術力を、高度な不発弾汚染の処理に適用する。

2.1.2 持続的な努力

  1)    2002年の調査結果と現在の地雷/不発弾除去の進行状況を考慮に入れると、前項による地雷 の脅威の減少を差し引いても、現在のレベルの地雷対策活動をあと20年〜25年続ける必要がある。そこで、地雷除去と回避教育、特に不発弾回避の教育、を長期に続けるための持続的な努力が必要である。

    2)   上記の期間が過ぎても、更に50年間は小さな優先度が低かった汚染地域に対処する小編       成の移動チームを存続させる必要がある。

2.1.3 政府の全面的な参加

 1)   カンボジアにおける現在の高レベルの地雷対策活動を2012年以降も続けるには、外国からの「無償援助」に頼っている現状を、政府、私企業の出資が多い状態に移行しなければならない。

 2)   その時は地雷・不発弾除去の殆どは「出動要請」ベースで政府機関が行なうか、政府から商業企業に委託契約されるようになる。商業企業、NGO、政府実施機関が商業契約/下請け契約で行なう業務は「出動要請」ベースを補完するものである。

 3)   地雷/不発弾の危険回避教育は基本的に学校、或いは政府の支援を受けた公的な教育機関が行なう。

 4)   犠牲者援助は基本的に政府および非政府の医寮、社会福祉機関により行なわれる。

 5)    CMAAはこの改革の主たる調整者の役目を演ずる。

2.2      ビジョン

2.2.1     中期ビジョン

     2012年までに地雷/不発弾の脅威をゼロにするために:
 1)    地雷/不発弾があると激烈に思われる地域、高度に思われる地域の総てを除去する。

 2)    地雷/不発弾があると思われる地域の総てで積極的な地雷回避教育を行なう。

2.2.2      長期ビジョン

2012年以降も地雷が残る僻地の問題に対処するため地雷対策の能力を持続させ、2025年までにカンボジアから地雷/不発弾の社会的・経済的のマイナス・インパクトを無くす。

以下略